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登山の魅力/あの時、僕は死んだ。

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僕には数年前まで、
「登山」という趣味があったことを不意に思い出した。

今だって何故か突然、強烈に登山へ行きたくなる。

それは突然、
意味もなく消えたくなるような気持ちに襲われる時と似ているかもしれない。

 

大学時代に友人と初めて富士登山をして、

登山の魅力を知り、

僕が体質的に高山病にならなかったこと、
人よりも少し登頂ペースが速いことに調子を良くして、

 

「もしかして登山の才能あるかもしれない。」と

「難易度の高い山」から順番に挑戦をしていたのです。

 

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登山好きの友人

 

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穂高から見た槍ヶ岳

 

剱岳、槍ヶ岳、穂高などの3,000m級の山々は美しくも厳しい。

ひとたび森林限界(※)を突破すると、

厳しい岩肌が露わになり、途端に見晴らしが良くなる。

※山の高度が高くなってくると、背の高い木々が育つことが出来なくなる限界地点を表します。

 

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槍ヶ岳の星空

 

運が良ければ、

夜はとんでもなく美しい星空に出会うこともある。

 

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黄金の朝焼け、

真っ赤な夕焼けにも出逢える。

 

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山頂で飲むお酒は、

飛べるくらい、アガる。

 

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山小屋で食べる食事は、

涙が流れるほど美味い。

 

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難易度が高ければ高いほど、
登山ルートから人の気配がなくなっていく。

 

電波の届かない場所で、孤独と向き合う。

耳に流れる音楽と向き合う。

自分と向き合う。

 

 

灯り一つない真夜中の山道で、
月を見ながら座り込む。

 

完全に、孤独な時間。

 

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一番難しかったコースは、

西穂高岳と奥穂高岳の縦走ルートにある、ジャンダルム。

 

夏山では一般ルートの中で一番難しいとされているコースで、

ヘルメットも命綱も付けず、予備知識もないまま臨んだ。

 

一度落ちたら最後のアスレチック。

 

アドレナリンがドバドバと出てくるので、覚醒しながら難所を攻める。

わずか幅10cmほどの溝を歩いていく箇所が、特に怖かったな。

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でももっと危ない時があった。

 

そうだ。
あの時、僕は一度死んでいる。

 

それは、ジャンダルムを無事にクリアした後、

難易度最大の箇所を通り抜けてテンションが上がってしまって、

登山コース外に外れてしまっていた。

 

傾斜30度近い浮石だらけの下り坂を下っていった先には、

もう道はなく、気づけば直角に切れ落ちる絶望の淵が眼前に迫っていた。

 

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あと数歩で、死ぬ。

 

踵を返して戻ろうとすると、

浮き石がどんどんと崩れていく。

 

歩けば歩くほど、
自分の足場が、直下降をして落ちていく。

 

ヤバイ。
石に足を攫われて一緒に落ちてしまう。

 

歩くか、
止まるか、
それとも走って駆け抜けるべきか。

 

急展開していく"滑落死"へのシナリオと、

異常に冷静になっていく"頭の中"のギャップは今でも鮮明に覚えている。

 

未だにあのシーンは、夢で見る。

 

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究極の状況下、

極限まで研ぎ澄まされた脳が下した指令は、

「四つん這いで進め。」

 

 

少しでもまともな浮き石を選んで

体重を分散させながら、四つん這いで登っていく。

 

一つ一つの石を確かめながら、

足場が総崩れにならないよう進む。

 

ミスをすると、砂埃を立てて石は落ちていく。

 

眼と手をフルに使って

死に物狂いで選別した石たちは、

僕を支えてくれ、無事に登り切った。

 

通常ルートに戻ってきた瞬間。

何故か込み上げたのは 、笑いの感情で。

一人で大笑いをしていた。

 

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奥穂高岳山頂でテント泊をしていた時、
夜中に何度も雷鳴が轟いた。

大きな音が鳴る度に、
テントの中は雷の閃光で照らされる。

強めのお酒を一気に飲んで、
無理やり眠りにつく。

隣の槍ヶ岳山頂では、雷に打たれて死人が出た。
と翌日のニュースで知る。

 

赤岳の初雪山ソロアタックで、
柔らかな斜面を数メートル滑落し、
自力で這い上がる。

 

大雨の槍ヶ岳アタックの日、
僕たちが選んだルートではない方で、
濁流に流されて行方不明者が出たらしい。

 

 

死が真隣に迫る。

 

その時に強く、
僕は生の重さを感じる。

 

またいつか、山に登りたい。

そして緑の美しい平地に戻って、僕はきっと安堵するのだ。

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