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ナスの棘/痛みは学び/茄子の反骨精神

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その日の夕飯は、
挽肉カレーに揚げ茄子のトッピング。

最近、カレーの出来栄えは調子が良くて、
香辛料や調味料や水を足し続ける、味の迷走地獄に陥ることなく、
今回も無事に味が整ったのです。

ようやく主役の準備を終え、
トッピングの茄子を切ろうとした矢先。

「痛っ。」

と口から声を漏らしたか、
それとも無言だったのか分からない程度の痛みが、
微かに、右の人差し指に走った。

ナスの棘が刺さったのだ。

人差し指を見ると、とても小さな棘のかけらが傷口に深く潜り込んでいた。
爪やピンセットで抜こうと指を引っ張ってみたが、棘は抜けない。

とても微小な棘だったので、
きっと放っておいても自然に体内に取り込まれていくだろうと考え、
むしろその強い棘を持った、新鮮な茄子の味の予感に心を弾ませて、
料理を進めていく。

少し不自由な指で愉しむ夕飯も、悪くはなかった。

やはり挽肉カレーの揚げ茄子トッピングは、とても美味しい。

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5日後の晴れの日、翌週に跨いで見事に、
トゲの刺さった人差し指は腫れていた。

文字を書くにも、
マウスをクリックするにも、
カメラのシャッターボタンを押すにも、
ギターの指弾きをするにも、
本の頁を捲るにも、

「利き手の人差し指とは、とても重要なのだ。」
と痛みが語りかける。

 

慌ててすぐに、皮膚科のドアを叩く。

そしてなんと医師は麻酔を打つと言い、軽い手術に。

人差し指の根元に注射が打たれ、麻酔が効いてくると、
みるみる人差し指は自分の身体とは異なった知覚になっていく。

ものの数分で医師は指先を切開し、棘を抜いた。

「植物の棘って、意外と異物反応が出るものなのです。
今日は土いじりは厳禁です。」

なるほど、なるほど。
金属片などの人工物よりも異物反応が強いのか。
茄子ってすごい。

土いじりは厳禁。
今回は買ってきたナスだったけれども。
農業従事者だと思われたのかなあと、ちょっと嬉しく思いながらも帰宅。
確かに今日はエダマメの豆を捲く予定だったので、少し延期することに。

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トゲが無くなった人差し指と4日分の抗生剤を引き換えに、
2,500円が財布から出て行った。

治療費と材料費と光熱費。

言うまでもなく、過去最高額のカレーだ。
こうなったらフォアグラでも乗せておけばよかったのかもしれない。

なんて。

 

でも、あの茄子は己の身を必死に守ったのである。

棘が指先にお供した5日間。
その強い生命力と身を寄せたんだ。

植物や動物たちには、いつも貰ってばかり。
こんな痛みも、たまにはいい。

食べ物は、無言の、誰かの痛みで出来ている。

そんなことを教えてくれた。

痛みは学びである。

 

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家庭菜園を趣味にしている者からすると、
ナスはタネからの栽培がとても難しい実感がある。

種を撒いて発芽して、待てど暮らせど、
ヒョロヒョロの双葉のまま。

結局毎年、プロが育てた苗を買って、
畑に植えることになるのである。

そして収穫の時は棘に注意し、
調理前にはアクを抜かないといけない。

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茄子の反骨精神。

未熟者の君なんかに育てられて、
食べられてたまるものか。

もっと、もっと勉強しなさい。
と語りかけられているような。

そんな、茄子の反骨精神は素晴らしい。