最近自転車の調子が悪い。
2011年に買ったロードレーサーは今年で8年目。
そろそろ本格的に手入れをしないといけない。
そう思いながらボディの傷を撫でると記憶が蘇ってゆく。
自転車を買ったその日の夜、感情が高まりすぎて
名古屋の親戚の家まで、東京から自転車で行くことを決めた。
今まで新幹線でしか行ったことがなかった名古屋へ。
いつも猛スピードの新幹線からテレビ映像のように眺めていた、
車窓の外の夏を走る。
湘南の潮風、
夜の国道1号バイパスから見た由比、
箱根の山霧、
静岡の怖いくらい整った茶畑、
御前崎の陽気で不気味な穏やかさ、
夕暮れの浜名湖、
豊田の工業地帯の熱気、
起伏のあるアスファルトの歩道、
伸び放題の雑草、
蜘蛛の巣、
知らない誰かが生活している民家民家民家民家民家、、、
どの街にもセオリー通りに配置されているチェーン店、チェーン店、チェーン店、、、、
新幹線は300km/hの、
車は60km/hの、
自転車は15km/hの、
歩きは4km/hの風景がある。
加速は快適さを生み出し、しかし風景を省いていく。
回り道が好きだ。
この目が追いつくスピードの物事しか楽しめない。
でもこれはきっとノスタルジアなのだろう。
「故郷へ戻りたいと願うが、二度と目にすることが叶わないかも知れないという恐れを伴う病人の心の痛み」
なのだろう。
時間軸はバネだ。
螺旋を描いて進んでいく。
縮まっていくバネの間隔を広げることはできないかもしれない。
でも大切なことはきっと、自分だけの時間軸を思い出すこと。
やたらと寿命が長くなってしまったのだから、
そんなに焦っていたら、人生に飽きてしまうだろう?
知らない植物の名前が気になってしまったんだろう?
知らない鳥の名前が気になってしまったんだろう?
君はまだ、ゆっくりと走れる。
疲れた時には目を瞑ったっていい。
自転車なら数秒目を瞑りながら走ったって大丈夫だから。